出典:ピクサー「カールじいさんの空飛ぶ家」
皆様は「カールじいさんの空飛ぶ家(原題:up)」という映画をご存知でしょうか。
そう、あのおじいさんが風船で家ごと空を飛ぶディズニー/ピクサー製作の映画です。
この映画はめちゃくちゃ面白くてあたたかいファミリー向け映画なのですが、同時にサイコホラー映画の怖さも持っているんです。
もちろん子供から大人まで笑えて泣けるシーンだってたくさんあるのですが、あまりにとあるキャラクターの”狂と鬱”の気が強すぎるのです。
今回は、ある1人のキャラクターを中心に「カールじいさんの空飛ぶ家」のあらすじを解説させていただきます。
チャールズマンツ(チャールズ・ムンツ)という男
出典:ピクサー「カールじいさんの空飛ぶ家」
チャールズマンツ(チャールズ・ムンツ)とは、 主人公カール・フレドリクセンが幼少期最も憧れた有名な冒険家です。
彼は多くの人々に支持されていましたが、とある出来事がきっかけである場所へ失踪してしまっていました。
月日が経ち大人になったカールは、 亡くなった妻との夢を叶えるため、 風船をつけた家でパラダイスの滝へと旅立ちます。
出典:ピクサー「カールじいさんの空飛ぶ家」
滝へ向かう途中、カールは様々な仲間と出会います。
一緒に着いてきた少年(ラッセル)、 喋る犬(ダグ)、めちゃくちゃデカい鳥など。
ラッセルはその鳥を可愛がり 「ケヴィン」と名前をつけますが、 冒険の途中で巣に戻ってしまいます。
出典:ピクサー「カールじいさんの空飛ぶ家」
そんな中、ある人物に遭遇します。
それはなんと、年老いたカールの憧れの冒険家、チャールズ・マンツでした。
出典:ピクサー「カールじいさんの空飛ぶ家」
彼、実は地上を離れ、この山に飛行船で着陸し、何十年もこの場所で暮らしていたのでした。
マンツは親切な老人で、 初対面のカールたちを自分の飛行船に案内して、 ご馳走までしてくれます。
ご飯を食べながらカールたちの話題はある鳥の話に移ります。
実はマンツ、 「この辺に住んでいる、あるすごい鳥を地上に連れて帰り、 人々に認めてもらう」という目標を持っているためにこんな限界すぎる場所で何十年も暮らしているのです。
マンツがここまで追い詰められたのは、 若かりし頃の出来事が原因でした。
彼は元々大人気の冒険家でしたが、 ある日持ち帰った鳥の骨を冒険者協会に「ニセモノ」呼ばわりされたのです。
周りからは嘘つき扱いされ、そのせいで冒険家の資格を剥奪され、プライドを汚されたマンツは旅に出ます。
「怪物を、生きたまま捕まえる。 それまで決して戻らない!」と言い残して。
出典:ピクサー「カールじいさんの空飛ぶ家」
それから彼は何十年もの間、「パラダイスの滝」で数百匹の犬とともに篭っているのです。
「みんな私を『嘘つき』と…」 「あれからずっと鳥を追いかけている」
どうやらあの日のことを相当引きずっているようです。
「時々、鳥を捕まえようと やってくるやからがいる。 すぐにこの山の恐ろしさを 知ることになるがな…」
出典:ピクサー「カールじいさんの空飛ぶ家」
明らかに不穏な空気が漂います。 鳥を横取りしようとした人間は どうやら無事では済まないようです。
ここでラッセルが鳥の標本を見つけ、叫びます。
「あの鳥、 ケヴィンにそっくり!」
そう、先ほどカールらが仲間にした鳥「ケヴィン」は、 マンツが人生の全てを捧げても捕まえることのできなかったあの怪鳥だったのです。
「ついてくるようにケヴィンをしつけた」と続けるラッセル。
鳥目当ての泥棒だと思われぬよう慌ててそれを遮るカール。 しかしそれが原因で逆に怪しまれてしまいます。
マンツは、何かを察したようにこう続けます。
「ここにきた人間はみんな、いろんな理由をでっち上げてきた。 地図作りのための測量。草木の標本集め。」
「そしてある男は… パラダイスの滝に家を運ぶと言った。」
「君の話が一番傑作だ、結末が楽しみだ」
出典:ピクサー「カールじいさんの空飛ぶ家」
机に置かれたヘルメットたちを杖で次々とはたき落としていくマンツ。
ここの隠喩表現は、明らかに彼が今まで鳥を捕まえにきた人間たちを皆殺しにしてきたことを表しています。
怖いのは、 今まで訪れた人間たちが 本当に鳥を盗みに来たのかわからないところ。
事実カールは今誤解で命を狙われています。 今まで殺された彼らも、 本当は鳥なんて狙っていなかったのでは?
話し合える雰囲気では無いと悟り、 ラッセルを連れて逃げ出すカール。
ここから老人vs老人の壮絶な戦いが始まるのでした。
「カール&ラッセル」 VS「マンツ&犬たち」
出典:ピクサー「カールじいさんの空飛ぶ家」
「カール&ラッセル」 VS「マンツ&犬たち」の攻防戦が続きます。
終盤になり、剣を手にして襲い掛かってくるマンツ。
「あいつは私が連れて帰るんだ。 たとえ死骸でも!」
今まで人生をかけて集めてきた貴重な標本を切り倒しながら、本気で命を奪いに来ます。
そしてカールの家に乗り込んだマンツですが、 カールが上手くケヴィンを誘導したことでラッセルたちは脱出に成功します。
そしてカールの家は空に放たれました。
マンツは家から飛行船に乗り移ろうとするも間に合わず、 遥か遠い地上へと落ちていきました。
出典:ピクサー「カールじいさんの空飛ぶ家」
マンツの救いようのない"かわいそうさ"
マンツ、元々悪い人間ではなく 「良い人が狂ってしまった」という雰囲気があるところにどこまでも切なさ・かわいそうさを感じます。
あんなに大量の犬を連れていながら駒のように扱っている様子はありません。
犬が乗るグライダーにはきちんとパラシュートを付け、犬一頭一頭に対し主人らしくはありながらも親しげに話しかけています。
トイストーリー4のポスターでは 犬たちと娯楽まで楽しんでいます。
出典:https://www.hometheaterforum.com/community/media/2019-toy-story-4-poster.5845/
初めのカールたちに対するフランクな態度にも、 本人の気前の良さが滲み出ています。
しかし大事な部分が狂っていました。 それが切ないのです。
彼の救いがない点の1つは、 怪鳥の好物がチョコだったこと。
チョコは犬にとって猛毒。
愛犬家、かつ犬に料理を作らせるマンツが持っているはずないのでした。
もう1つの救いのなさはここ。
途中、鳥を捕まえることに成功するマンツのシーンです。
出典:ピクサー「カールじいさんの空飛ぶ家」
「私を信じなかった奴ら、 お前を見たら驚くぞ…」
彼は怪鳥を見ながら、こう呟きます。
ここで注目すべきは、「あれはほんの数年前の話ではなく、もう50年以上昔の出来事」という点。
たとえ今鳥を持ち帰ろうとも、 当時の人々はとっくに忘れているか、亡くなっています。
彼を祝福する人などもうほとんどいないのです。
そんな事実に気付くことなどなく、 彼は一生を鳥探しに捧げてきた。
あまりにも虚しい生涯です。
数十年前の汚名を晴らすためだけに人生を捨て、 何年ものあいだ山に住み着き、 多くの人を殺し、 望みの薄い栄光に縋り続ける姿はピクサーで最も狂っていると言っても過言ではないでしょう。
カールじいさんの空飛ぶ家の鬱々とした初期設定
マンツと不老不死
マンツの初期設定は色々と面白いものがあるので、いくつか紹介させてください。
まず、元々マンツは「あの頃から数十年経っているにもかかわらずあの頃と同じ若い姿で出てくる」という設定でした。怖い…
ファミリー映画で不老不死のキャラクターが出てきたら普通「ファンタジーだな〜」となるのにここまでのキャラクター性を見てから見るとホラーゲームの怖い展開にさえ見えてきます。ちなみに不老になった理由は「怪鳥の卵を食べたから」です。怖い。
マンツの最期
そしてマンツ、実は初期構想段階だと違う結末を迎えていたようです。こちらも聞いてください。
「一度入ったら二度と出られない鳥の巣に迷い込み、永遠に出られなくなる」
怖くないですか???????
完全に怪談のオチによくあるやつ。殺してもくれないのが逆に怖い。ピクサー、あまりにも罰の与え方がエグい。
ところで、前述の卵の効果は不老なのか不老不死なのか…?
ここからは完全な予想ですが、もしも後者ならば初期構想のマンツはこれから「怪物の住む世界で死ぬこともできず永遠に生き続ける」ことになるのではないでしょうか?怖い。合わせ技で2倍怖くなる、完全に良作ホラーの定番技です。
何はともあれ本編の世界線では無事(???)死ぬことのできたマンツでした。マンツの厚みのある人生はここで終わりを告げたのです。
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